小さなお子さんが指を口にくわえている姿は、とても愛らしいですよね。
しかし、その一方で、「指しゃぶりは歯並びに悪い」という話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。確かに、指しゃぶりが長期間続くと、歯並びや噛み合わせに影響を及ぼす可能性があります。
「でも、いつまで指しゃぶりをさせていて大丈夫なの?」「無理にやめさせると、かえってストレスにならないかしら?」「もし歯並びが悪くなったら、どうすればいいの?」
指しゃぶりをするお子さんを持つ親御さんであれば、このような疑問や不安を抱くのは当然のことです。指しゃぶりは、子どもにとって安心感を得られる大切な行為の一つ。それを無理に取り上げてしまうのは、子どもにとっても、親御さんにとっても、辛いことです。
この記事では、そんな親御さんの疑問や不安を解消するために、指しゃぶりと歯並びの関係について解説していきます。指しゃぶりを自然にやめられる時期の目安や、歯並びへの具体的な影響、そして効果的なやめさせ方、さらには歯並びに影響が出てしまった場合の対処法まで、幅広く網羅しています。
この記事を通して、指しゃぶりについて正しい知識を身につけ、お子さんの成長を温かく見守りながら、適切な時期に、適切な方法でサポートするヒントを得ていただければ幸いです。
1. 指しゃぶりとは?いつまで様子を見るべき?
指しゃぶりとは、乳幼児が自分の指を口に入れて吸う行為のことです。多くの場合、生後2~3ヶ月頃から始まり、親指を吸うことが多いですが、他の指や複数の指を吸うこともあります。
指しゃぶりをする理由
赤ちゃんや子どもが指しゃぶりをする理由は、主に以下の3つと考えられています。
- 本能的な欲求: 赤ちゃんは生まれながらにして、口で吸うという「吸啜(きゅうてつ)反射」を持っています。これは、母乳やミルクを飲むための本能的な行動であり、指しゃぶりはその延長線上にあると考えられています。
- 精神的な安定・安心感を得るため: 指を吸うことで、お母さんのおっぱいを吸っている時のような安心感や心地よさを得られるため、精神的な安定のために指しゃぶりをすることがあります。不安や寂しさを感じたとき、眠いときなどに特に見られやすいです。
- 退屈しのぎ・遊びの一環: 手持ち無沙汰な時や、特にすることがない時に、遊びの一環として指しゃぶりをすることもあります。
いつまで様子を見るべき?自然にやめる時期の目安
指しゃぶりは、多くの場合、成長とともに自然にやめていきます。一般的には、1歳頃までは特に心配する必要はないとされています。1歳を過ぎても続けている場合でも、頻度や強さが減ってきているようであれば、そのまま様子を見ても良いでしょう。
3歳頃までには、ほとんどの子どもが指しゃぶりをやめると言われています。これは、自我の芽生えや社会性の発達に伴い、他の遊びや活動への関心が高まるためです。また、乳歯が生え揃う時期でもあり、指を吸う感覚が変わってくることも理由の一つです。
指しゃぶりを続けても良いとされる年齢と、やめさせるべきタイミング
一般的に、4歳を過ぎても頻繁に指しゃぶりをしている場合は、歯並びや噛み合わせに影響を及ぼす可能性があるため、やめさせる方向で考えた方が良いでしょう。
しかし、年齢だけで判断するのではなく、頻度や指を吸う強さ、時間なども考慮する必要があります。 例えば、寝る前だけ、あるいは不安な時だけなど、限られた場面でのみ指しゃぶりをする場合は、無理にやめさせる必要はないかもしれません。
長期化する指しゃぶりのリスク
4歳以降も指しゃぶりが続くと、以下のようなリスクが懸念されます。
- 歯並びや噛み合わせへの悪影響: 具体的な影響については次の章で詳しく説明しますが、出っ歯や開咬などの原因となる可能性があります。
- 口腔内の衛生状態の悪化: 指を長時間口に入れていることで、唾液の循環が悪くなり、虫歯や歯周病のリスクが高まります。
- 発音への影響: 舌の動きが制限されることで、特定の音が発音しにくくなることがあります。
- 精神的な依存: 指しゃぶりが精神的な安定を得るための唯一の手段になってしまうと、やめることがさらに難しくなります。
2. 指しゃぶりが歯並びに与える影響
指しゃぶりが長期間続くと、歯並びや噛み合わせに悪影響を及ぼす可能性があります。ここでは、指しゃぶりによって引き起こされる具体的な歯並びの問題と、そのメカニズムについて詳しく解説します。
指しゃぶりによる具体的な歯並びへの影響
指しゃぶりによって、以下のような歯並び・噛み合わせの問題が生じることがあります。
- 出っ歯(上顎前突): 上の前歯が前方に突き出た状態です。指を吸う力によって、上の前歯が前方に押し出され、同時に下の前歯は内側に押し込まれることで起こります。
- 開咬(オープンバイト): 奥歯は噛み合っているのに、前歯が噛み合わず、上下の歯の間に隙間ができてしまう状態です。指を吸うことで、前歯の正常な発育が妨げられ、噛み合わせが深くなりすぎることで起こります。 指を前歯の裏側に押し当てている時間が多い場合、発症しやすいです。
- 交叉咬合(クロスバイト): 上下の歯の噛み合わせが、部分的に反対になっている状態です。 指しゃぶりによる負荷が左右どちらかに偏ることで、顎の成長に左右差が生じ発症することがあります。
- すきっ歯(空隙歯列): 歯と歯の間に隙間がある状態です。特に上の前歯にできることが多く、指の圧力で歯が外側に広げられてしまうと発症しやすくなります。
なぜこれらの影響が出るのか?メカニズムを解説
指しゃぶりによる歯並びへの影響は、主に以下の3つのメカニズムによって引き起こされます。
- 指の圧力による歯の移動: 指を吸う力は、一見弱そうに見えますが、長時間、継続的に力が加わることで、歯は少しずつ動いてしまいます。特に、前歯は指の圧力の影響を受けやすく、前方に押し出されたり、内側に押し込まれたりします。
- 舌の位置の変化: 指しゃぶりをしている間、舌は通常よりも低い位置、または前方に位置することが多くなります。この状態が続くと、舌が前歯を裏側から押す力が強くなり、出っ歯や開咬の原因となります。また、正しい舌の位置を習得することが難しくなり、将来的な歯並びや発音にも影響を与える可能性があります。
- 口呼吸の誘発: 指しゃぶりをしている間は、鼻で呼吸することが難しくなるため、口呼吸になりがちです。口呼吸が癖になると、口周りの筋肉が緩み、口が常に開いた状態になります。この状態は、出っ歯や開咬を助長するだけでなく、虫歯や歯周病、風邪などのリスクも高めます。
指しゃぶりの期間・強さと影響の大きさの関係
指しゃぶりによる歯並びへの影響の大きさは、指しゃぶりの期間、頻度、吸う強さ、指の本数などによって異なります。一般的に、指しゃぶりの期間が長く、頻度が高く、吸う力が強いほど、歯並びへの影響は大きくなります。 また、複数の指を同時に吸う場合も、影響が大きくなる傾向があります。
指しゃぶり以外で歯並びに影響を与える癖
指しゃぶり以外にも、歯並びに影響を与える癖として、以下のようなものが挙げられます。
- 爪噛み: 前歯に負担がかかり、出っ歯や欠けの原因となります。
- 舌癖(ぜつへき): 舌で前歯を押す癖。出っ歯や開咬の原因となります。
- 口呼吸: 上記で説明したように、様々な悪影響を及ぼします。
- 頬杖: 顎や歯列に負担がかかり、顔の歪みや噛み合わせのズレの原因となります。
これらの癖も、指しゃぶりと同様に、早期に発見し、改善することが重要です。
3. 指しゃぶりをやめさせる方法
指しゃぶりをやめさせるためには、子どもの年齢や性格、発達段階に合わせたアプローチが重要です。ここでは、年齢別の効果的な方法と、具体的なアイデアをご紹介します。
年齢別のアプローチ方法
- 乳児期(0~1歳): この時期の指しゃぶりは生理的な欲求に基づくものであるため、無理にやめさせる必要はありません。それよりも、指しゃぶり以外のことへ意識が向くような関わり方が大切です。
- 他のものへの興味誘導: おもちゃや絵本など、赤ちゃんが興味を持つものを積極的に与え、指以外のものに意識を向けさせましょう。
- スキンシップを増やす: 抱っこや授乳など、赤ちゃんとのスキンシップの時間を増やし、安心感を与えましょう。
- 環境の変化: 生活リズムを整えたり、新しい環境を経験させたりすることも効果的です。
- 幼児期(1~3歳): 徐々に言葉の理解が進む時期です。指しゃぶりの頻度や強さが減っている場合は、無理にやめさせず、様子を見守りましょう。頻度や強さが増している場合や、3歳を過ぎても頻繁に指しゃぶりをする場合は、少しずつやめさせる方向で働きかけを始めましょう。
- 言葉での説明: 「指を吸っていると、バイキンさんがお口に入っちゃうよ」「歯さんが痛いって言ってるよ」など、子どもにもわかりやすい言葉で、指しゃぶりをやめた方が良い理由を説明しましょう。
- カレンダーやシールを使った方法: 指しゃぶりをしなかった日にシールを貼ったり、カレンダーに印をつけたりして、やめられたことを視覚的に確認できるようにしましょう。
- 成功体験の積み重ね: 「今日は指しゃぶりしないで頑張れたね!」など、指しゃぶりをやめられたことをたくさん褒めて、成功体験を積み重ねさせてあげましょう。
- 4歳以降: 本人の自覚を促し、歯科医師とも連携しながら、指しゃぶりをやめられるようにサポートしていきましょう。
- 本人と話し合う: 指しゃぶりを続けるとどうなるのか、本人と一緒に考え、やめたいという気持ちを引き出しましょう。鏡を使って、自分の歯並びを確認させることも効果的です。
- 歯科医師との連携: 歯科医院で、指しゃぶりの影響について説明してもらうことも効果的です。専門家からの言葉は、子どもにとって大きな影響力を持つことがあります。場合によっては、歯に装着する器具の使用も検討します。
具体的な方法・アイデア
年齢に応じたアプローチに加えて、以下のような方法も効果的です。
- 指に絆創膏や苦いマニキュアを塗る: 指を口に入れた時の違和感から、指しゃぶりを抑制する効果が期待できます。ただし、嫌がる場合は無理強いしないようにしましょう。マニキュアは専用のものを使用してください。
- おしゃぶりの活用(乳児~1歳半くらいまで): おしゃぶりは指しゃぶりと比べ、歯並びへの影響が少ないとされています。指しゃぶりの代わりにおしゃぶりを使うことも一つの方法です。ただし、長期間の使用は避けましょう。
- 手遊びや絵本の読み聞かせなどで気を紛らわせる: 手を使う遊びや、絵本の読み聞かせなどに集中させることで、指しゃぶりをする機会を減らしましょう。
- 寝る前の指しゃぶりの対策: 寝る前の絵本の読み聞かせやマッサージを行うことで子供がリラックスして寝られるように環境を整えることも重要です。寝る時に手をつなぐことも、安心感を与えられ指しゃぶり防止につながるでしょう。
- ポジティブな声かけ、褒めることを重視: 「指しゃぶりをしない!」と叱るのではなく、「指しゃぶりしないでえらいね!」「今日は頑張れたね!」など、指しゃぶりをやめられたことをたくさん褒めて、子どものやる気を引き出しましょう。
無理にやめさせることのリスク
指しゃぶりを無理にやめさせようとすると、以下のようなリスクが生じる可能性があります。
- 逆効果になる可能性: 叱られたり、無理やり指を口から外されたりすることで、かえって指しゃぶりへの執着が強くなることがあります。
- ストレスの増大: 指しゃぶりは子どもにとって精神的な安定を得るための手段の一つです。それを無理にやめさせると、大きなストレスとなり、他の問題行動(爪噛み、チックなど)を引き起こす可能性もあります。
- 親子関係の悪化: 指しゃぶりをやめさせる過程で、親子のコミュニケーションがうまくいかず、関係が悪化してしまうこともあります。
根気強くサポートすることの重要性
指しゃぶりをやめさせるためには、時間がかかることを理解し、根気強くサポートしていくことが大切です。 子どもの気持ちに寄り添い、小さな成長を認め、褒めてあげることで、子どもは自信を持って指しゃぶりをやめることができるでしょう。
4. 指しゃぶりで歯並びに影響が出た場合の対処法
指しゃぶりによって歯並びや噛み合わせに影響が出てしまった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。ここでは、歯科医院での相談の重要性と、具体的な治療法について解説します。
歯科医院での相談の重要性
指しゃぶりによる歯並びへの影響が心配な場合は、まずはかかりつけの歯科医院に相談しましょう。 歯科医師は、歯並びや噛み合わせの状態を専門的に診査し、指しゃぶりの影響の有無や程度を判断してくれます。
早期相談のメリット
- 適切なアドバイスが受けられる: 指しゃぶりをやめさせるための効果的な方法や、家庭でできるケアについて、専門的なアドバイスを受けることができます。
- 問題の早期発見・早期治療: 早期に問題を把握し、適切なタイミングで治療を開始することができます。問題が小さいうちに治療を開始することで、より効果的かつ、子供への負担が少ない治療が可能になります。
- 安心感を得られる: 専門家に相談することで、親御さんの不安や疑問を解消し、安心して子どもの成長を見守ることができます。
年齢に応じた矯正治療の選択肢
歯科医院では、子どもの年齢や歯並びの状態に合わせて、以下のような矯正治療が行われます。
- 小児矯正(1期治療): 乳歯と永久歯が混在している時期(主に6歳~10歳頃)に行われる矯正治療です。顎の成長をコントロールしたり、永久歯が正しく生えるためのスペースを確保したりすることで、将来的な歯並びの問題を予防・改善することを目的としています。
- 床矯正(しょうきょうせい): 取り外し可能な装置を使って、顎の成長を促進したり、歯を動かしたりする治療法です。
- マウスピース矯正: 透明なマウスピース型の装置を使って、歯並びを整える治療法です。近年では小児用のマウスピース矯正も普及してきています。
- 部分矯正: 必要な部分にのみ矯正装置をつける方法です。
- 筋機能療法(MFT): 舌や口周りの筋肉を鍛えるトレーニングです。正しい舌の位置や口呼吸の改善などを目的に行われます。指しゃぶりをやめた後の後戻り防止にも効果的です。
- 成人矯正(2期治療): 永久歯が生え揃った後(主に12歳以降)に行われる矯正治療です。一般的に、ワイヤー矯正やマウスピース矯正などを用いて、歯並びや噛み合わせを整えます。
- ワイヤー矯正: 歯の表面にブラケットと呼ばれる装置を装着し、ワイヤーを通して歯を動かす治療法です。最も一般的な矯正治療法です。
- マウスピース矯正: 透明なマウスピース型の装置を使って、歯並びを整える治療法です。装置が目立ちにくいというメリットがあります。
早期に治療を始めるメリット
小児期に矯正治療を開始することで、以下のようなメリットがあります。
- 顎の成長を利用できる: 成長期であれば、顎の成長をコントロールしながら歯並びを整えることができるため、より効果的な治療が期待できます。
- 抜歯のリスクを減らせる: 早期に治療を開始することで、将来的に歯を抜かずに矯正治療ができる可能性が高くなります。
- 治療期間を短縮できる可能性がある: 症状が軽いうちに治療を開始することで、治療期間を短縮できる可能性があります。
- コンプレックスの解消: 歯並びが整うことで、子どもの自信につながり、精神的な成長にも良い影響を与えることが期待できます。
生活習慣の改善指導(指しゃぶり以外の癖への対策)
矯正治療と並行して、指しゃぶり以外の悪習癖(爪噛み、舌癖、口呼吸など)を改善することも重要です。歯科医院では、これらの癖を改善するための指導やトレーニングも行っています。
5. まとめ
この記事では、指しゃぶりが歯並びに与える影響について、詳しく解説してきました。
指しゃぶりは、赤ちゃんや小さな子どもによく見られる癖であり、多くの場合、成長とともに自然にやめられます。しかし、4歳を過ぎても頻繁に指しゃぶりを続けていると、出っ歯や開咬などの歯並びの問題を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
指しゃぶりをやめさせるためには、子どもの年齢や発達段階に合わせたアプローチが重要です。無理にやめさせようとすると逆効果になることもあるため、子どもの気持ちに寄り添い、根気強くサポートしていくことが大切です。
指しゃぶりによる歯並びへの影響が心配な場合は、早めに歯科医院に相談しましょう。 歯科医師は、歯並びや噛み合わせの状態を専門的に診査し、適切なアドバイスや治療を提供してくれます。
この記事の要点
- 指しゃぶりは、多くの場合、1歳頃までは心配する必要がなく、3歳頃までに自然にやめることが多い。
- 4歳以降も頻繁に指しゃぶりを続けていると、歯並びや噛み合わせに悪影響を及ぼす可能性がある。
- 指しゃぶりをやめさせるためには、年齢に応じたアプローチと、具体的な方法を試してみる。
- 無理にやめさせると、逆効果になったり、ストレスになったりするため、注意が必要。
- 歯並びへの影響が心配な場合は、早めに歯科医院に相談する。
- 小児矯正などを利用し、早期に治療を開始することで、多くのメリットがある。
最後に
指しゃぶりは、子どもにとって大切な成長過程の一つです。親御さんは、指しゃぶりの影響について正しい知識を持ち、焦らず、愛情を持って、お子さんの成長を見守ってあげてください。そして、必要に応じて専門家のサポートを受けながら、お子さんの健やかな成長と美しい歯並びを育んでいきましょう。
この記事が、指しゃぶりについて悩む親御さんにとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
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