歯周病は、歯ぐきや歯を支える骨などが破壊される病気です。進行すると歯が抜け落ちてしまうこともあり、適切な治療が必要です。
近年、歯周病治療において注目されているのが「歯周組織再生療法」です。
これは、失われた歯周組織を再生させる治療法で、従来の治療法では難しかった歯周ポケットの改善や歯の安定に効果が期待できます。
歯周組織再生療法には、主に「エムドゲイン」と「リグロス」という2つの方法があります。
今回は、それぞれの治療法の特徴や違い、メリット・デメリットなどを詳しく解説し、あなたに最適な治療法選びをサポートします。
エムドゲインについて
エムドゲインは、歯周病治療、特に歯周組織の再生療法において用いられるバイオマテリアルです。
エムドゲインの作用機序
エムドゲインの主成分は、エナメルマトリックスデリバティブ(EMD)と呼ばれるタンパク質です。これは、豚の歯の発生過程でエナメル質を形成する細胞から抽出されたもので、歯周組織の再生を促す効果があります。
具体的には、EMDは以下のような作用を及ぼします。
- 細胞の接着と増殖: 歯根膜細胞やセメント芽細胞など、歯周組織の再生に関わる細胞の接着と増殖を促進します。
- 細胞の分化: 前駆細胞を歯根膜細胞やセメント芽細胞へと分化させ、新しい歯周組織の形成を誘導します。
- 抗炎症作用: 炎症反応を抑制し、歯周組織の治癒を促進します。
これらの作用により、エムドゲインは歯周病によって失われた歯ぐきや骨の再生を助け、歯周ポケットの縮小や歯の動揺の改善に貢献します。
エムドゲインの適用
エムドゲインは、主に以下の様な症例に適用されます。
- 中等度から重度の歯周炎: 歯周ポケットが深く、歯槽骨の吸収が認められる場合。
- 歯周外科手術: 歯周ポケットの縮小や歯槽骨の再生を目的とした手術。
- 歯肉退縮: 歯ぐきが下がって歯根が露出している場合。
- インプラント周囲炎: インプラント周囲の歯周組織が炎症を起こしている場合。
エムドゲイン治療の流れ
エムドゲイン治療は、一般的に以下の様な流れで行われます。
- 診査・診断: 歯周病の状態を把握するため、レントゲン撮影、歯周ポケット検査などを行います。
- 歯周基本治療: プラークや歯石の除去などを行い、口腔内環境を改善します。
- 外科手術: 必要に応じて、歯周ポケットを切開し、歯根を露出させます。
- 歯根面処理: 歯根面に付着したプラークや歯石を徹底的に除去し、清潔な状態にします。
- エムドゲインの塗布: 処理した歯根面にエムドゲインを塗布します。
- 縫合: 歯ぐきを縫合し、エムドゲインを患部に固定します。
- 術後のケア: 定期的な検診やクリーニングを受け、口腔内衛生を維持します。
エムドゲイン治療のメリット・デメリット
メリット
- 高い再生能力: 歯周組織の再生を促し、歯周病の進行を抑制します。
- 低侵襲性: 従来の治療法に比べて、身体への負担が少ないです。
- 安全性: アレルギー反応などのリスクが低いとされています。
デメリット
- 費用: 保険適用外のため、費用が高額になる場合があります。
- 効果: 全ての症例で効果が保証されるわけではありません。
- 術後の痛みや腫れ: 手術後には、痛みや腫れが生じることがあります。
エムドゲイン治療を受ける上での注意点
- 保険適応ではなく自費診療: 医院によって価格が異なることがあります。
- 口腔内衛生管理: 治療の効果を最大限に引き出すためには、日頃から口腔内衛生管理を徹底することが重要です。
- 定期的なメンテナンス: 治療後も定期的に検診を受け、歯周病の再発を防ぐことが大切です。
エムドゲインは、歯周病治療において非常に有効な材料ですが、全ての症例に適応されるわけではありません。ご自身の歯周病の状態や治療法について、歯科医師とよく相談し、治療を受けるかどうかを判断することが重要です。
リグロスについて
リグロスは、歯周組織再生療法に用いられる薬剤です。正式名称は「bFGF含有ゲル製剤」で、主成分である塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)の働きによって歯周組織の再生を促進します。
リグロスの作用機序
bFGFは、様々な細胞の増殖や分化を促進する成長因子です。歯周組織においては、以下の細胞に作用し、組織の再生を促します。
- 歯根膜細胞: 歯根と歯槽骨を繋ぐ繊維状の組織を構成する細胞。
- セメント芽細胞: 歯根の表面を覆うセメント質を形成する細胞。
- 骨芽細胞: 歯槽骨を形成する細胞。
bFGFはこれらの細胞に働きかけることで、
- 血管新生: 新しい血管を形成し、歯周組織への血液供給を増加
- 細胞増殖: 歯周組織を構成する細胞の増殖を促進
- 細胞遊走: 必要な細胞を患部に呼び寄せ、組織の修復を促進
- 細胞外マトリックスの産生促進: 細胞外マトリックスは、細胞と細胞の間を埋める物質で、組織の構造維持に重要
といった効果を発揮し、歯周組織の再生を促します。
リグロスの特徴
- 高い安全性: ヒト由来のbFGFを使用しており、安全性が高い。
- 簡便な使用方法: ゲル状で患部に塗布するだけで使用できるため、操作が簡単。
- 保険適用: 2016年より保険適用となり、患者さんの経済的負担が軽減。
リグロスの適用
リグロスは、主に以下の様な症例に適用されます。
- 慢性歯周炎: 歯周ポケットが4mm以上で、歯槽骨の吸収が認められる場合。
- 歯周外科手術後: 歯周ポケットの縮小や歯槽骨の再生を目的とした手術後。
- 根分岐部病変: 歯根が分岐している部分にできた病変。
- 歯肉退縮: 歯ぐきが下がって歯根が露出している場合。
リグロス治療の流れ
- 診査・診断: レントゲン撮影、歯周ポケット検査などを行い、歯周病の状態を詳しく調べます。
- 歯周基本治療: プラークや歯石の除去などを行い、口腔内環境を改善します。
- 外科手術: 必要に応じて、歯周ポケットを切開し、歯根を露出させます。
- 歯根面処理: 歯根面に付着したプラークや歯石を徹底的に除去し、清潔な状態にします。
- リグロスの塗布: 処理した歯根面にリグロスを塗布します。
- 縫合: 歯ぐきを縫合し、リグロスを患部に固定します。
- 術後のケア: 定期的な検診やクリーニングを受け、口腔内衛生を維持します。
リグロス治療のメリット・デメリット
メリット
- 高い再生能力: 歯周組織の再生を促し、歯周病の進行を抑制します。
- 低侵襲性: 身体への負担が少ない治療法です。
- 安全性: 副作用のリスクが低いとされています。
- 保険適用: 保険適用のため、患者さんの経済的負担が軽減されます。
デメリット
- 効果: 全ての症例で効果が保証されるわけではありません。
- 適用範囲: 重度の歯周病や、歯槽骨が垂直的に失われている場合は、適用できないことがあります。
- 術後の痛みや腫れ: 手術後には、痛みや腫れが生じることがあります。
リグロス治療を受ける上での注意点
- 保険適応: 保険治療での適応範囲内で処置を受ける場合、歯周病の治療の流れを踏まえた上で複数回通院する必要があります。
- 口腔内衛生管理: 治療の効果を最大限に引き出すためには、日頃から口腔内衛生管理を徹底することが重要です。
- 定期的なメンテナンス: 治療後も定期的に検診を受け、歯周病の再発を防ぐことが大切です。
- 喫煙: 喫煙は歯周組織の再生を阻害するため、禁煙することが推奨されます。
リグロスは、歯周病治療において非常に有効な薬剤ですが、全ての症例に適応されるわけではありません。ご自身の歯周病の状態や治療法について、歯科医師とよく相談し、治療を受けるかどうかを判断することが重要です。
歯周組織再生療法についてよくある質問
Q1: 歯周組織再生療法とはどんな治療法ですか?
A1: 歯周病は、歯垢(プラーク)に含まれる細菌によって引き起こされる炎症性疾患です。進行すると、歯肉だけでなく、歯を支えている歯根膜、セメント質、歯槽骨といった歯周組織が破壊されてしまいます。
歯周組織再生療法は、この破壊された歯周組織を再生させることを目的とした治療法です。薬剤や再生材料、特殊な膜などを用いて、歯周組織の再生を促し、歯を支える力を回復させ、歯の寿命を延ばすことを目指します。
Q2: どんな人が歯周組織再生療法を受けられますか?
A2: 歯周病が進行し、歯周ポケットが深く(5mm以上)、歯槽骨が溶けてしまっている方が主な対象となります。
- 具体的な歯周病の状態:
- 中度~重度の歯周炎
- 歯槽骨の垂直的な欠損
- 根分岐部病変
- 歯周外科手術後の骨再生
しかし、歯周組織再生療法はすべての人に適応されるわけではありません。
- 全身疾患がある場合: 糖尿病、骨粗鬆症、心臓病、免疫不全などの疾患がある場合は、治療のリスクが高くなる可能性があります。
- 重度の歯周病の場合: 歯槽骨がほとんど残っていない場合や、歯の動揺が非常に大きい場合は、再生療法の効果が期待できないことがあります。
- 口腔衛生状態が悪い場合: 歯磨きが不十分で、歯垢や歯石が多い場合は、治療の効果が得られないことがあります。
最終的には、歯科医師による診察と検査(レントゲン撮影、歯周ポケット検査など)を受けて、治療が可能かどうか判断してもらう必要があります。
Q3: 歯周組織再生療法にはどんな方法がありますか?
A3: 様々な方法がありますが、主な方法として下記が挙げられます。
- エムドゲイン: ブタの歯胚から抽出されたエナメルマトリックスタンパク質を主成分とするゲル状の薬剤です。歯根面に塗布することで、セメント質や歯根膜の再生を促し、歯槽骨の再生を誘導します。
- メリット: 比較的低侵襲な手術で済みます。
- デメリット: 自費診療の為費用が高いです。
- 適応: 軽度から中等度の歯周病、歯根膜の欠損、根面被覆
- リグロス: ヒトの遺伝子組み換え技術によって作られた、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)というタンパク質を主成分とする薬剤です。歯周ポケットに注入することで、歯槽骨の再生を強力に促します。
- メリット: 骨再生の効果が高い。
- デメリット: 保険適応だが、一通りの歯周治療を行う必要がある。
- 適応: 中等度から重度の歯周病、歯槽骨の垂直的・水平的欠損、根分岐部病変
- GTR法(組織再生誘導法): 生体膜や人工膜を用いて、歯周組織の再生を促す方法です。歯肉を切開し、歯根を露出させた後、欠損部に骨補填材を充填し、その上に膜を被せて歯肉を縫合します。膜は、歯肉などの軟組織が骨欠損部に入り込むのを防ぎ、骨の再生を促進する役割を果たします。
- メリット: 広範囲の骨欠損に対応できる。
- デメリット: 手術が複雑で、治療期間が長くなる場合がある。
- 適応: 重度の歯周病、広範囲の骨欠損、インプラント治療前の骨造成
これらの方法にそれぞれ特徴があり、患者さんの状態(年齢、全身状態、歯周病の進行度、骨欠損の大きさや形態など)に合わせて最適な方法が選択されます。
Q4: 治療期間はどれくらいですか?
A4: 治療期間は、歯周病の進行度や治療方法、患部の状態によって異なりますが、一般的には数ヶ月から1年程度かかります。
- 術後の治癒期間: 手術後、歯肉が治癒するまでには1~2週間程度かかります。
- 骨の再生期間: 骨が再生するまでには、通常3~6ヶ月程度かかります。
- 定期的な経過観察: 治療後も、定期的に歯科医院で経過観察を行い、歯周病の再発がないか、骨の再生が順調に進んでいるかなどを確認します。
Q5: 治療費用はどれくらいですか?
A5: 治療費用は、治療方法や使用する材料、治療期間、医療機関などによって大きく異なります。
- 保険適用: 歯周外科手術の一部は保険適用されますが、エムドゲイン、リグロス、GTR法などの再生療法は、ほとんどの場合、自費診療となります。
- 費用目安:
- エムドゲイン:1歯あたり数万円~10万円程度
- リグロス:保険適応で1本あたり1万円前後
- GTR法:1部位あたり数万円~10万円程度
Q6: 歯周組織再生療法を受ければ、歯周病は完治しますか?
A6: 歯周組織再生療法は、歯周病の進行を抑制し、失われた歯周組織を回復させる効果的な治療法ですが、歯周病を完全に治すものではありません。
歯周病は、細菌感染によって引き起こされる病気です。そのため、治療によって歯周組織が再生しても、口腔内の細菌コントロールが不十分であれば、歯周病が再発する可能性があります。
治療後も、以下の点を心がけることが重要です。
- 毎日の丁寧な歯磨き: 歯垢をきちんと落とすことが、歯周病予防の基本です。歯科医師や歯科衛生士から、正しい歯磨きの方法を指導してもらいましょう。
- 定期的な歯科検診: 3~6ヶ月に一度は歯科医院で検診を受け、歯石除去や歯周病のチェックを行いましょう。
- 生活習慣の改善: 喫煙、ストレス、食生活の乱れなどは、歯周病のリスクを高めます。健康的な生活習慣を心がけましょう。
Q7: 治療後の注意点は何ですか?
A7: 治療後は、以下の点に注意する必要があります。
- 手術部位の安静: 手術後数日は、手術部位を刺激しないように、激しい運動や飲酒、喫煙は避けましょう。
- 歯磨きの注意: 手術部位を強く磨いたり、歯ブラシを当てすぎたりしないように注意しましょう。
- 食事の注意: 硬いものや刺激の強いものは避け、手術部位に負担をかけないようにしましょう。
- 薬の服用: 処方された薬は、指示通りに服用しましょう。
- 定期的な検診: 定期的に歯科医院で検診を受け、歯周病の再発を防ぎましょう。
まとめ
エムドゲインとリグロスは、いずれも歯周組織の再生を促す有効な治療法ですが、それぞれの特徴や適応症が異なります。
エムドゲインは、歯根面に塗布することで歯周組織の再生を促す薬剤で、比較的軽度の歯周病に適しています。 一方、リグロスは、歯周ポケットに注入することで骨の再生を促す薬剤で、重度の歯周病や骨欠損の大きい症例に適しています。
どちらの治療法が適しているかは、歯周病の進行度や骨欠損の状態、そして患者さんの全身状態などを考慮して決定されます。
歯周組織再生療法は、歯周病によって失われた歯周組織を回復させるための有効な手段です。 ご自身の歯周病の状態に最適な治療法を選択するために、歯科医師とよく相談することが大切です。
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